高配当株投資で気をつけたいこと
配当利回りが高いという理由だけでは危険
2022年に入ってからグロース株からバリュー株に投資のトレンドが転換しました。
そしてバリュー株の中でも特に人気があるのは、配当利回りの高い株に投資する「高配当株投資」です。
高配当株投資では配当利回りの高い銘柄に投資する必要があるため、以下のような高配当株ランキング(配当利回りの高い順に並べた一覧)を参考にして投資対象銘柄を選定します。
ところが、高配当株投資で気をつけなければならないのは、配当利回りが高いという理由だけで銘柄を選定するのは危険ということです。
いざ高配当株投資を始めると、少しでも配当利回りの高い銘柄に投資したくなりますが、配当利回り以外にも確認すべきことがいくつかあります。
そこで今回は、なぜ配当利回りが高いという理由だけで投資するのは危険なのか解説していきます。
配当利回りの高い海運株「商船三井」を例に説明していきますので、参考にしてください。
高配当株投資で最低限確認したいこと
それでは、高配当株投資でこれだけは確認しておきたいことについて解説します。
以下の3つは最低限確認してから投資しましょう。
- 高配当(配当利回り4%以上)
- 配当金が増配(もしくは減配していない)
- EPSが増加(もしくは減少していない)
1つ目は、「高配当(配当利回り4%以上)」であることです。
当たり前ですが、高配当株投資は高配当銘柄に投資する必要があります。明確な基準は無いものの、一般的には4%以上が高配当株の目安になることが多いです。
まずは配当利回りが4%以上かどうかを確認しましょう。
2つ目は、「配当金が増配(もしくは減配していない)」ことです。
高配当株投資は、配当金を継続的かつ安定的に還元してくれる銘柄に投資する必要があります。
そのため、基本的には配当金が増配(もしくは減配していない)銘柄を選定するようにしましょう。
3つ目は、「EPSが増加(もしくは減少していない)」ことです。
配当金の原資となるのがEPS(1株あたりの純利益)になります。
EPSが増加(もしくは減少していない)銘柄を選ぶことができれば、配当金を大きく減らされる可能性は低いです。
なお、EPSに関しては過去に解説した記事があるので参考にしてください。
それでは、海運株を例に「なぜ配当利回りが高いという理由だけで投資するのは危険なのか」解説していきます。
商船三井(9104)
商船三井の配当利回り(予想)は、約14.6%と超高配当です。
配当利回りが4%超えれば高配当と言われるため、商船三井の配当利回り(予想)がいかに高いかわかります。
それでは詳しく見ていきましょう。
配当金
まずは配当金を確認していきます。商船三井の配当金推移はどうなっているでしょうか。
2022年3月期以前は、配当金は多少の増減があるもののほぼ横ばいで推移していました。
ところが、2022年3月期から配当金が400円に増額しています。8倍も配当金が増配することは、通常ではありえません。
そして2023年3月期の配当金(予想)は、350円とやや減配しますが、それでも従来よりは極めて高い配当金です。
以上のことから、何らかの一時的な要因で配当金が増加しているのではと想像することができます。
EPS
次にEPS配当金を確認していきます。商船三井のEPS推移はどうなっているでしょうか。
2022年3月期以前は、EPSがマイナスになることも多く、EPSが安定していないことがわかります。
基本的にはEPSから配当金を捻出するため、「EPSが安定しない=配当金が安定しない」といえます。
そして配当金が急激に増加した2022年3月期のEPSは、1970円と約8倍に増加しました。
以上のことから、配当金が増加したのはEPSが急激に増加したことが原因と考えられます。
それではEPSが急激に増加した理由は何でしょうか。
EPSが増加した理由
商船三井のEPSが増加した理由は、決算短信に記載がありました。
当期の業績につきましては、売上高12,693億円、営業損益550億円、経常損益7,217億円、親会社株主に帰属する当期純損益は7,088億円となりました。
なお、当社持分法適用会社OCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.(以下「ONE社」)の大幅な増益などにより、営業外収益で持分法による投資利益として6,573億円を計上いたしました。
引用:商船三井(決算短信)
ここで気になるのが、営業損益550億円に対して経常損益7217億円と10倍以上も数値が異なる点です。
営業損益は本業による利益を表していて、経常損益は営業外収益も加味した利益になります。
つまり、営業損益に比べて経常損益が10倍以上の数値になっているのは、営業外収益が大幅に増加したことによるものです。
これがEPSが増加した理由といえます。
EPSの増加(営業外収益の増加)は一時的な現象
営業外収益が大幅に増加したのは、持分法適用会社ONE社のコンテナ船事業が絶好調だったためです。
2020年後半から本格的な経済活動が再開し、コンテナ船の需要が急拡大&運賃が高騰しました。コロナによる人手不足や航空輸送の減少で運賃が数倍以上になったと言われています。
そしてONE社の莫大な利益のうち約30%が商船三井の営業外収益として計上されているのです。
ちなみに、ONE社は商船三井と日本郵船、川崎汽船の3社で出資しています。
そのため、商船三井と同じように日本郵船と川崎汽船もONE社の利益が営業外収益として加算されています。
しかし、注意しなければならないのが、コンテナ船の需要拡大と運賃の高騰はいつまでも続かないということです。
あくまでもコロナ禍という特殊な状況でONE社は莫大な利益を稼ぐことができただけにすぎません。
つまり、現在のEPSを維持することは難しく、過去の実績からもEPSの継続的な増加は見込めないです。
こういったことからも、「配当利回りが高いという理由だけで投資するのは危険」といえます。
【参考】日本郵船(9101)
参考までに日本郵船のデータ(配当金とEPS)を載せておきます。
商船三井とほぼ同じような状況になっていることを確認しましょう。
配当金
EPS
【参考】川崎汽船(9107)
参考までに川崎汽船のデータ(配当金とEPS)を載せておきます。
商船三井・日本郵船とほぼ同じような状況になっていることを確認しましょう。
配当金
EPS
まとめ
今回は、配当利回りの高い海運株「商船三井」を例に「なぜ配当利回りが高いという理由だけで投資するのは危険なのか」解説しました。
商船三井は配当利回りがとても高いですが、一時的な要因で配当金が高くなっているだけにすぎません。
過去の配当金やEPSの推移を確認すると、コロナ禍以降の配当金とEPSが異常に高くなっていることがわかります。
この要因は、持分法適用会社ONE社のコンテナ船事業が絶好調だったためです。
コロナ禍という特殊な状況で莫大な利益を稼ぐことができただけにすぎず、「配当利回りが高いという理由だけで投資するのは危険」といえます。
今回と似たようなテーマで記事を書いています。
こちらは明和産業を例に解説しているので参考にしてください。